前回の噺家による傑作エッセイ「赤めだか」に引き続き、今回は会社員が書いた傑作小説の話です。
久々に小説を新刊で購入しました。梶村啓二氏の「野いばら」。10月に発表のあった「第3回日経小説大賞」の受賞作です。自慢になりませんが、今年のベストセラー小説は全て”未読”という私にしては極めて珍しい行動といえます(^^;;
何故か?選考委員激賞の「ストーリーを支える圧倒的な文章力」という論評に惹かれたこともありますが、もっと個人的な理由でした。
作者の梶村氏(右写真)を間接的に知っていた為です。新聞発表を見て「あれ?」と思ったら、やはりそうで、弟(大学の映画研究会に所属)の先輩。学生だった弟からよく話を聞かされていた人物でした(ちなみに梶村という名前はペンネーム)。私の実家に遊びに来たこともあるらしい。
大学卒業後、広告代理店勤務。少なくとも、若い頃の梶村氏は、小説家志向ではなかったと聞いています。それが、「読んでいて快い名文」「完璧な信頼おける文章」と選考委員会に言わしめ、満場一致の受賞です。スーパーサラリーマンと呼ばせて頂きましょう^^
…とまぁ、そんなこんなで読み始めた「野いばら」。期待に違わぬ素晴らしい作品でした(下写真は、12月6日に行われた授賞式の様子/日経新聞より)
海外出張中の日本人、縣(あがた)が、100年以上前に書かれた英国情報士官の手記を読む機会を得ます。現代のイギリスと幕末の日本という二つの時空を行き来して進行する物語。音楽的に言えば、主旋律と副旋律の二重奏。
それが、いささかの綻びも感じさせず、すっと読めてしまうのは、やはり文章の力であり、優れた構成力のなせる技でしょう。悲恋話なのに、さわやかな読後感。新人にしてこの完成度です。次作も目が離せませんね(^^) by dan